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ネットのリスク、地域メディアの強み/武蔵大学松本恭幸ゼミのみなさんからの質問(3)(4)

【質問(3)】地域にインターネットを導入することにより得られると期待した事、また導入によるリスクを伺わせてください。

【答え】インターネット初期に考えたメリットは、何と言っても地方紙のニュース・情報を世界に飛ばせることです。

ジャーナリズムの世界では有名なピューリッツァ―賞がありますが、日本の新聞社にだって、それに匹敵する報道成果はいくらでもあるはずです。日本語による報道というだけで日本独自のものに終わっていますが、インターネットをうまく使えば、ローカルメディアの価値を大革新できると考えました。それがネットの初期段階です。今、考えればあまりにユートピア的で楽観的ですが、そんな将来が来ると思うと、実にワクワクしたものです。

導入によるリスクは何もなかったように思います。いざ、踏み出そうとする前に、自分では確認してもいない、根拠に乏しい「リスク」をあれこれ言い立てる人にどう対応するかの方がリスク管理上、よほど重大でした。現時点でも、ネット社会への対応は、メディアとしての、いわば必須の環境整備にすぎません。リスクを先に考えて立ち止まる余裕はないはずです。

残念ながら今となっては、もっと地道で切実な問題が重くのしかかっています。既存の地方新聞社が手をこまねいている間に世間様は、すっかり「ネット社会」仕様になってしまいました。既存メディアである地方新聞社は、ネット社会への対応の点ですっかり後れをとってしまいました。一体、今後、どう生き残ろうとしているのでしょう。

定年退職し、新聞社の現場を退いた身にかろうじて届く「風の便り」によれば、地方新聞社群がネット社会に対応するための明るい材料はほとんど見えません。はっきり言ってそれは現職のみなさんの重大なテーマなので、OBが気にすることでもないのでしょうが、やはり心配です。

私自身の個人的な立場は、自分も含めて地方新聞に集う人たちがこれまであまり目を向けてこなかった、自分がよって立つ地域のメディアアクティビティに注目しながら、5年先、10年先のメディア世界につながる世界観や具体的なメディア戦略・戦術を考えることにあります。長い間育ててくれた地方新聞社の動向を見守っていれば、ずっと先の方で連携できるのかもしれません。

【質問(4)】地域と一言で言っても文化、特色も違うのでそれぞれにオリジナリティのあるメディアが誕生していくと思います。そこで、地域に由来するメディアが生み出すことのできる強みがあれば教えて下さい。

【答え】オリジナリティや多様性が地域にあることは新聞時代も同じでした。ネット社会になって何が違うかと言えば、そのオリジナリティを文化として楽しんだり、ビジネスや商品として開発したりする可能性を飛躍的に高めたことです。そのオリジナリティを生かした文化やビジネス、商品が広大なネット社会に供給するに足るものであることは言うまでもありません。長い間、地域だけで消費されてきた価値がネットやデジタル技術によって解き放たれつつあります。これを強みと言わなくてどうするのでしょうか。

しかしながら、地方新聞社に限っていえば、インターネットが登場して以来、ほぼ20年間というもの、せっかくのオリジナリティを新聞あるいは新聞業界の都合に閉じ込めてきました。地域に由来するメディアの強みであるはずのオリジナリティを「ネット社会」仕様でコントロールするための努力を、たとえ倒れても続けなければならない20年のはずでした。今後10年、20年と続く将来も同様です。

今、「ネットはもうからない」とか言って、ネット部門を縮小しているケースがあるやに聞きますが、事ここに至って、ネットやデジタルから逃げよう、目を背けようとするリーダーたちは果たしてどんなメディア戦略を考えているのでしょうか。自分だけが1年か2年生き残ればいい、面倒なことはやりたくないというのであれば、それは、これからも新聞あるいは新聞社に集う後輩たちを置き去りにするようなものです。新聞メディアの未来を考えるうえで大きな禍根を残すことになるでしょう。

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