地元新聞「ホノルル・スター・アドバタイザー」に目を通しました。どことなく違和感を覚えましたが、すぐにはその理由に思い当たりませんでした。翌日、ハワイ大のメディア研究者ジェラルド・カトーさんにインタビューしているうちに、選挙の記事が非常に少ないのに気づきました。
米国は2年に1度の中間選挙の年。8月には予備選、11月に本番です。しかも、ハワイでは現知事のニール・アバクロンビー氏の再選がなるかどうかをかける州知事選も行われます。国政、ローカルともに政治の季節だというのに、ホノルル・スター・アドバタイザーには選挙関連の記事であることを示す「キャンペーン2014(CAMPAIGN 2014)」のついた記事が1日に1本あるだけでした。
ホノルル・スター・アドバタイザーは夕刊紙「ホノルル・スター・ブリテン」と朝刊紙「ホノルル・アドバタイザー」が2010年に合併してできました。ホノルルで唯一、ハワイ州最大の日刊紙です。発行部数は平日21万部、週末15万部。
準備も兼ねて日本でながめていたCivil Beatでは「選挙」のメニューが用意され、中間選挙に関する記事や有権者に役立つと思われる情報がいつでも参照できるようになっていました。記事にコメントがつくだけでなく、候補者になると目される陣営にメディアとして質問を出し、回答があったものをそのまま掲載するなど、積極的な姿勢が目立ちます。
言うまでもなく、地域を基盤とする日本の地方新聞社でも、知事選クラスの選挙報道は持続的かつ多様に取り組むのが普通です。その点で、ホノルル・スター・アドバタイザーの報道はいかにも淡泊です。同紙の選挙報道を詳細に把握する余裕はありませんでしたが、インターネットの特性を生かしながら双方向の報道に取り組むCivil Beatとの違いがあまりにも際立って見えました。
もともと新聞社の政治担当の記者だったカトーさんは、唯一の地元紙に不満を露わにします。「選挙報道には価値がないと、新聞社が決めつけてしまっている。もっとしっかり報道してほしい。ホノルルでは地元紙が一つしかないので、新聞社間の競争も存在しない。その日その日、新聞を発行できればいいと、軽く考えているのではないか。以前の新聞社はインターネットにかなり力を入れていたが、最近では収益を上げにくいという理由で、どんどん縮小している。新聞をそのままネットに流すだけでは誰も見ない。インターネットを活用したCivil Beatも経営的には厳しいはずだが、新聞社がこんなことでは、新聞からデジタルに置き換わるのは当然のことだ」
米国では、紙の新聞の退潮著しく、新聞社が本来、カバーすべき地域や問題の取材に手が回らなくなっているといわれています。日本でも、米国のこうした状況を取り上げながら、既存の新聞社の危機=ジャーナリズムの危機と早合点する受け止め方もあるようです。
しかし、米国のメディアの世界を少し広い視野でながめてみれば、新聞社の危機ではあるかもしれませんが、それだけでジャーナリズムの危機とは言えません。もっぱら米国モデルを観察してきただけなので、正確さに欠けるのは許していただきたいのですが、紙の退潮を補おうとするデジタルジャーナリズムの試行錯誤が多様に進みつつあるのは事実です。
デジタルやインターネットがもたらす意味をとらえ損ね、紙メディアが結果として努力不足に陥っている分、Civil Beatのような新しいメディアが生まれます。オンライン系の新しいチャレンジが本当に持続可能になるまでには、時間がかかるかもしれません。市民に支持されるかどうか。その点だけが重要です。
写真はホノルル・スター・アドバタイザー。コスト削減のためかインクや紙の質が・・。