写真をご覧ください。ホノルルのワイキキ周辺を半日歩いて手に入れたフリーペーパーです(手前はスターアドバタイザー紙)。デジタル化の波に押されて、いわゆる伝統的なメディアの代表である新聞社が苦戦しているのはハワイも同様です。大きな趨勢としてデジタルがアナログを圧倒していると見ることもできますが、ハワイは世界的な観光コンテンツの集積地でもあります。フリーペーパーの活況を見ても分かるように、アナログ、デジタルいずれのメディアにとっても、まだまだ決着のつかない世界のように見えます。
ホノルルの地元紙スターアドバタイザーの場合も「ローカル」をベースに、「局地戦」を戦っている最中です。確かに、新聞読者は高齢化し、インターネットによるライフスタイルや価値観の変化が新聞を危機的な状況に追いやっています。デジタルやネット事業では、思うような成果が上がっていないとも言われます。
これに対しスターアドバタイザー社は、10年ほど前から雑誌の出版に力を入れ、ペーパーによる情報サービスを多様化させつつあります。今では、ハワイの大手ホテル向けの雑誌など、その数、20種類に上ります。紙メディアによる情報サービスはし烈な競争のさなかにありますが、オンラインと違って、現地に行かないと手に入らない感じ、歩きながら気軽に利用できる感じが支持されているようです。
実際、ワイキキのホテルに宿泊していて、同社が編集した上質な雑誌が新聞と一緒に配達されることがありました。観光客にとってホテルは前線基地のようなものです。見るからに安手のフリーペーパーもある中で、地元の新聞社のネームバリューと編集面の蓄積は有効なのではないかと思いました。雑誌メディアは、利用者層が新聞よりも明確なので、コンテンツの絞り込み、見栄えなど、オンラインのプラットフォームとしても優れています。デジタル事業で収益が上がらない分、アナログメディアの特性を生かして収益の道を探る、新聞社の取り組みは今後も続きそうです。
スター・アドバタイザー社の社員は約500人。うち100人程度が新聞の編集部門で働いています。デジタルを専門に担当してる編集者は5人程度。デジタル事業の企画プランに合わせて、他のセクションの社員がかかわったり、外部に依頼することでやり繰りしています。
一見、貧弱そうに思えるデジタルの編集体制ですが、日本の地方新聞社に比べて、かなりの頑張りようがうかがえます。主なデジタルサービスとしては「スター・アドバタイザー」のウェブサイト(デジタル版)とグルメやファッション中心の本格的なポータルサイト「ホノルルパルス」があります。
デジタル版は新聞購読のコースと組み合わせ可能なサービスです。オアフ島限定のサービスとして新聞(配達)+デジタル版が設定されています。月極め毎日配達の場合、デジタル版は購読料35ドル75セントに含まれます。購読者はすべてのオンラインサービスを利用できるほか、新聞紙面をデジタル化した「プリントレプリカ」と記事データベースを利用できます。
新たに新聞とデジタル版を同時に契約する場合は、コース(毎日配達、週末+、日曜+)ごとに割引料金が準備されています。
ページビューや訪問者数など、さまざまなウェブサイトの実力を外から判断するのは非常に難しいのですが、久しぶりにALEXA.COMなどを使って「ホノルル・スター・アドバタイザー」のウェブサイトの力を推測してみました。
ALEXA.COMの精度についてはいろいろな評価があります。河北新報社のウェブ部門の仕事を開発する過程で、実務上の「勘」を鍛えるためのレッスンの一つとして時折、使ってきました。ぼんやりとイメージをつかむぐらいのつもりでご覧ください。鵜呑みにしないようにくれぐれもお願いします。
ALEXA.COMによると、「スター・アドバタイザー」のランキングは世界で17590番目、全米で3650番目です。参考までに河北新報社の「kahoku.co.jp」は世界で54757番目、日本国内で2954番目です。うーん、分かりにくいかもしれませんね。ちなみに今回の取材で訪問した「Civil Beat」は世界で87830番目、全米で17339番目です。
「スター・アドバタイザー」のフェイスブックページを見てみましょう。「いいね」は31万9千件です。河北新報は4454件。(河北新報さん、ごめんね)。さまざまなメディアのデジタル系の取り組みを(自己申告ではなく)、簡単に外部評価できる環境が欲しいですね。
インターネットが日本に登場して以来の時間的な経緯で言えば、すっかり出遅れた感の強い地方新聞社ですが、今こそデジタル分野の可能性をしっかり検討すべきだし、これからの伸びしろについても、具体的な目標を設定しつつ進まないと、いつまでも空理空論の域から抜けられません。とりわけネットの世界では、自分の仕事を自己都合の論理で考えるのではなく、異質な要素をあえて対置させながら進む必要があります。世界中のウェブサイトから具体的な指標を選び、そのサイトの理念、コンテンツ、運営手法等を分析し、自己評価の軸にするような工夫が必要です。