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個人(市民)と協働するメディア/筆甫地区でメディアを考える⑤完

hippo_last02「個人(市民)と協働するメディア」のイメージはまだ漠然としていますが、「まるこさんの夢」に刺激される形で妄想を広げてみます。

まず、日々のニュース(情報)の取材と発信力が「まるこ」さんの「夢」をサポートできます。そのためには、報道記者の仕事範囲の拡大・再調整が必須。これまでのように取材して終わり、配達して終わりの環境は大きく変わらざるを得ません。取材記者にブログやフェイスブックの活用をすすめた経験がある人は分かると思いますが、「ブログを書いているほど暇ではない」「ツイッタ―やフェイスブックをやる時間があるなら(新聞の)原稿を書け」といった反応にあうものです。

個人的な経験で言えば、そういう「信念」の持ち主を説得しても始まらないので「忙しく仕事しなければブログは書けない」「(新聞の)原稿を少しはまともにするための環境がソーシャルメディアなんだよ」と、胸の内でつぶやくことにしています。時間がたてば、嫌でも自分で気がつくでしょうし、これぐらいのことに自分で気づく視野を持たなければ、取材者・表現者として役に立つとは思えません。

「個人(市民)と協働するメディア」の担い手は、個人(市民)の夢をキャッチできるアンテナを必要とします。その夢の可能性や問題点を正確に把握し、解決策を提案する過程そのものが報道としての新しい形になります。当然のことながら、視野狭窄的に1人で振る舞っても限界があります。ソーシャルメディアを活用したネットワークづくりが不可欠なイメージです。

アーカイブ(記事データベース)の分野にも役立ちそうな情報が蓄積されています。インターネットを検索すれば、相当の情報を入手できますが、インターネットでヒットする情報はノイズも多いし、地域に根差した視点で実際に有効利用できる情報となると、効率的につかむのは案外、難しいものです。

古い話で恐縮ですが、米国のインターネット事情について取材した最初の事例のひとつ、カリフォルニアの地方新聞社サンフランシスコ・クロニクルは、新聞記事データベースを無料で開放していました。1990年代末、ネットビジネスを主導したIT大手企業の攻勢の前に、米国の新聞社が危機感を募らせていました。ネット担当者の1人は「有料の商用データベースとして売りたくてもなかなか売れない。わずかの売り上げを目指すよりも、生活や勉強にネットを使う若者たち、特に地域で頑張っている若者たちに自由に使ってもらい、新聞社そのものに親しみを抱いてほしい」と話していました。日本の新聞社でも、佐賀新聞社がアーカイブを無料で使えるようにしていた時代があります。

hippo_last01これらの戦略的なフリーアーカイブ路線に対しては当時でも、「ビジネスモデルの体をなしていない」(サンノゼマーキュリーの担当者)との批判がありました。20年、30年の時間を考えれば、どの立場をスタートラインにするかの違いにすぎません。インターネットを利用したビジネスモデルの開発は始まったばかりだったし、ネット環境はと言えば、専用の電話番号にかけてつなぐダイアルアップの時代でした。フリーのアーカイブがどれだけ利用され、地方新聞社の存在感をどう支えたかの分析もありません。

ひょっとしたらアーカイブをフリーにする選択は少々早すぎたかもしれません。しかしながら、インターネットが社会に定着し、ソーシャルメディアが情報の流通を飛躍的に変えてしまった今、地域に由来するメディアの百年戦略の中で、フリーアーカイブを位置づけし直す価値は十分にあります。

その際、メディアとしての「情報の収集力」「情報の発信力」と「アーカイブ(データベース)」を一体的な過程でとらえ、報道・編集の観点で再構築する必要があります。最悪なのは「個人(市民)と協働する」考え方を広告・販売などの営業戦略の中に埋没させてしまうことです。デジタル化の流れやライフスタイル、価値観の変化を十分に踏まえた新しい報道価値を生み出すつもりで取り組むべきです。

社会問題の解決につながる議論の場や議題の設定、適切な解説・報道は、報道機関にとって古くて新しいテーマです。古くは米国で1990年代に広がった「パブリックジャーナリズム」の理念と通じるはずです。

地域密着の発想に立つ、いわゆる「ハイパーローカルコンテンツ」「ハイパーローカルジャーナリズム」は、お金に換算しないと気が済まない立場の人には評判が悪いようですが、「個人(市民)と協働するメディア」の観点からさらに分析・構築する必要を感じます。小さな取材をなお続けます。

【写真・上】筆甫地区の放射線量測定装置

【写真・下】筆甫まちづくりセンターには、放射線量を測定する希望が今でも寄せられる。持ち込まれたキノコの線量データを示すパソコンの画面。

(「ローカルとメディア」シリーズ「筆甫編」はこれで終わります)

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