畑仲哲雄さんの「地域ジャーナリズム コミュニティとメディアを結びなおす」(勁草書房)を読みました。インターネット草創期以降、地域に由来する新聞社のありようを考え、実践する機会に恵まれている人々におすすめです。特に、インターネットが伝統的メディアにもたらした衝撃の意味を理解しつつある人にとっては、有効で刺激的な内容に満ちています。
「新聞」の伝統的な手法や優先順位のつけかたを後生大事にすることで新聞社を守れると本当に信じている人には、残念ながら理解できないかもしれません。それと、デジタルに向き合う古い新聞関係者は何かと言えば「マネタイズ」を口にしますが、著者の問題意識は「地域」であり「ジャーナリズム」にあります。ビジネスモデル先行の議論ではありません。お間違えないように。
わが事として書いてしまえば、自分の立脚点や模索すべき方向性が多様で複雑であることをあらためて確認させてくれます。その際に前提とすべき理念や歴史についても、アカデミズムの立場から整理し、問題点も含めて投げ掛けてくれています。
膨大な内容を手際よく説明する力に欠けるので、著者が自らに課している「研究設問」を紹介しておきます。この設問にビビッとくる人たちにぜひ読んでいただきたいのです。
設問1 地域社会におけるジャーナリズムの機能や使命はいかなるものか。それは国家規模のマスメディアが実践するジャーナリズムとはどのように異なるか。
設問2 「地域ジャーナリズム」なるものをいかに定義できるか。それは主流メディアのジャーナリズムとどのような関係にあるだろか。
設問3 ジャーナリズムと市民社会との対等なパートナーシップは可能か。その条件はいかなるものか。
個人的には「ジャーナリズム」や「市民社会」について論を構える前にフォローすべき人々、事例が無限にあるような気がしています。ブログが日本の社会に登場して以来、ネット環境を活用してメディア活動にかかわる人たちが増えました。SNS、ソーシャルメディアの普及が、彼ら彼女らのメディア観に大きな影響を与えつつあります。
自らのメディア性を彼らが意識しているかどうかは分かりませんが、少なくとも結果としてメディア的な振る舞いに至っている当事者=プレイヤーの思いや視線をしっかりとらえる必要を感じます。
著者の畑仲さんは毎日新聞社、共同通信社などで記者、編集者を務めた後、研究者の道を進んだ人。共同通信社と地方新聞社が協力して運営している「47NEWS」の立ち上げ時の編集者です。龍谷大学社会学部准教授。ジャーナリズム論。