(前回から続く)
佐藤 「市民メディア」と言えば、もともと放送権が総務省や一部のマスメディアの独占状況にあるのに対して、情報を知るとか共有する権利は市民皆のものだから、それを市民にも開放してほしいという、いわゆる「パブリックアクセス権」の観点を強く意識する活動から始まったのではないかと思います。
関本 そこから自分たち独自の放送番組を作り、何らかのメディアを使って放送しようという動きが出てきた。住民ディレクターと呼ばれる人たちが、地域やそこの住民を題材に独自の番組を作り、何らかのメディアを使って放送する。熊本県山江村の住民ディレクターは全国的にも名前が知られている。少し経過して、今度は「メディアリテラシー」の視点が加わった。いわゆるマスメディアの報道は「構成されたもの」だから、それをそのままに受け止めるのではなく、何がどのように伝えられているか、それを理解出来るリテラシーを、受け取る側が身に着けなければならない。教育界でもようやく導入されるようになった。
佐藤 「市民メディア」に関する考え方や活動の内容は時間の経過とともに変化し、多様になっています。
関本 今、全体的に地域を見渡してみると、市民自らが情報発信するという動きが劇的に広がっている。多様性を保つ形で広がっているような気がする。いろんな考えや方向性がある。たとえば東京にある「OurPlanet-TV」は、その代表が白石草さんという人。彼女は、大手メディアで働いていた経験もあるが、やはりそこに限界を感じて自らネットテレビ局を開いた活発な女性。大手では伝えることができない、伝えないことをきめ細かく伝えている。それこそ国会へ突入していくような感じでやっていく。集団的自衛権を巡る国会周辺デモについてもそれを記者会館の屋上から中継させてくれと言って断られ、今、裁判をやっている。そんな白石さんのような人が全国にたくさんいる。白石さんは、福島の原発問題についても、大手メディアが伝えないようなことを、放射能被害をメーンにネットとか上映会で伝えていく取り組みもしている。
京都には宗田勝也さんという人がいて、「難民ナウ」というラジオ番組で難民問題を専門に番組放送をしている。神戸には「FMわぃわぃ」というコミュニティFMがあり、そこに地域に住む外国人のための番組をずっと発信し、地域コミュニティをつくることに力を入れている。神戸はもともとインターナショナルな街なので、ベトナム語、ポルトガル語、韓国語、スペイン語などの放送をずっとやっていて、それぞれの国の人たちがメディア-ラジオを楽しんでいる。また、いざというときに、たとえば災害のときに必要な情報を迅速に流せるような態勢もとっている。
畑仲哲雄さん=龍谷大学社会学部准教授=が上梓したばかりの著書「地域ジャーナリズム」(勁草書房)で取り上げている上越タイムスと協働的に紙面作りに加わっている秋山三枝子さんらの活動も、もともとはNPOの取り組みを配信する小さい情報誌から出発している。大阪に誕生した「てれれ」では、みんながそれぞれの問題意識をテーマに映像作品を作っていき、それを喫茶店などで公開して、お客さんらと一緒にわいわい議論する仕組みをとっている。送られてくる作品は原則、断らない。大阪なりの特徴があって「差別」の問題などもテーマに取り組んでいる。「てれれ」の特集第1回は「コンドーム」だった。コンドームをテーマに作品を作った。社会性や政治意識の高い人たちが、日本のみならず全世界から作品を送ってくる。
(次回に続く)