NPO法人「20世紀アーカイブ仙台」の活動には多様な側面があります。2011年3月の東日本大震災をきっかけに、古い写真や映像を活用しながら震災前と震災後の風景を比較する取り組みが強化されました。
人々が暮らしの中で受け継いできた思いや価値観が、震災によってどう断絶し、どう受け継がれていくのか。この問題にはまだ必ずしも明確なビジョンを得ているわけではありませんが、重要なポイントは、取材・編集・発信力に長けたプロフェッショナルな人たちではなく、普通の市民が暮らしの中で守り、育んできた土地の記憶を社会全体で共有できるものにしようということにあります。市民参加の手法を積み重ねることによって、アーカイブの新しい分野を開拓しているように見えます。
「20世紀アーカイブ仙台」副理事長の佐藤正実さんらの発想と実践が初めから「市民参加」の場を組み込んであり、市民がかかわる場面を多様に想定しようとしている点が重要です。古い写真や映像に向かう、市民らとの協働作業の先に、「メディア」としての「発信」をイメージしています。「アーカイブ」プロジェクトの新たな展開です。その現場から生まれる交流や気付き、検証の取り組みは、それ自体で、新しい「ニュース」「情報」としての意味を有することでしょう。
古い写真や映像に関心を持つ市民が集まり、語り合う場面を、一時的なイベントではなく、取り組みの根幹と位置づけるには、時間も手間もかかります。趣旨に共感する人たちを引き付ける工夫も必要です。従来型のマスメディア的なアーカイブ感覚では通用しないでしょう。
佐藤さんはマスメディアが保有する膨大なアーカイブを念頭に置きながら以下のように話しています。
「仙台市史の編纂に絡んで、河北新報の記事を調べたことがあります。そのときに、仙台市内の全町名について取材して紹介した記事を見つけ、心から驚きました。あのアーカイブを地元の地域づくりに活用出来たら素晴らしいと思います。地方新聞社が蓄積している膨大な記事は、地域に住むわれわれにとっても、非常に重要で、可能性に満ちたアーカイブといっていいでしょう。せっかくの貴重なデータを新聞の編集に利用するだけでなく、地域づくり(地元学や平成風土記のような、地域の人たちが自分たちのまちを知るテキストのように)に生かす視点で活用することはできないものでしょうか」
「アーカイブは貴重なものですが、いったん死蔵されてしまうと、とたんにもったいないことになります。過去の写真や記事のような『地域アーカイブ』の位置づけを大きく見直してほしい。特定の専門家だけが関わる編集ではなく、アーカイブに関心のある様々な立場の人たちが編集に携わり、素材をどんどん表に出してほしい。それが新しい形の『編集』と呼べるものになるのかもしれません」
写真(上)は、「20世紀アーカイブ仙台」副理事長の佐藤正実さん(せんだいメディアテークで開かれた「どこコレ?-おしえてください昭和のセンダイ」会場で)
写真(下)は、市民アーカイブの一環として、市民有志とともに写真提供者の受付、ヒアリングを行っているところ(20世紀アーカイブ仙台提供・2013年7月7日撮影)
(次回に続きます)