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街全体がリソース/「地域」と「メディア」(5・完)


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「連想出版」理事長の高野明彦さん(国立情報学研究所教授)は「お茶ナビゲート」について「リソースは街全体。単なる商店街案内ではない」と強調しています。「ここですべてが完結するのではなく、街の入り口になればいい。散歩、街歩きの起点にふさわしいサービスを工夫できれば、街づくりへの貢献にもなるはずです」

高野さんが言う「リソース」は「資源」というほどの意味でしょうか。「街」としての御茶ノ水界隈全体を視野に入れ、「街」を形作るあらゆる要素を「リソース」として意識し、より魅力的なサービスにつなげる。新聞や放送の編集にも似た過程です。その過程の先に「お茶ナビゲート」は位置づけられています。

「街歩き」の起点とするための最も基本的な情報提供の面では、単に情報を届けて終わり、発信して終わりではなく、その情報を手に入れた人々がたどるさまざまなシーンを念頭に置いています。

散歩コースを自分で設定し、立ち寄りたいスポットも自分で選ぶ。時代の異なる古地図を選び、同じタッチパネル上で、過去と現在の間を行き来する-。これらのサービスはすべて、サービスを開発する側が多様な「リソース」を組み合わせた結果ですが、同時に、街歩きする人自身が「リソース」の編集者として振る舞っているようにも見えます。

kensaku_shinchihei「お茶ナビゲート」の取り組みを通じて「地域」と「メディア」の関係を考えるうえでは、「連想出版」が独自に開発した「連想検索」について触れないわけにはいきません。

高野さんが執筆・監修した「検索の新地平-集める 探す 見つけた 眺める」(角川学芸出版「角川インターネット講座08」)によると、「連想検索」は「どうしたら電子情報空間をもっと私たちが『自分の頭で考える』のにふさわしい場所にできるだろうか」という問題意識で独自に開発されました。

私たちが普通に利用しているのは「指定した言葉の有無だけで探すウェブ検索」です。これは「ビーム幅の狭い超強力なサーチライトのようなもので、地球の裏側まで見通せるが、その視野はひどく狭い」(高野さん)。

一方、「連想検索」は、「連想」の名が示すように、一つの言葉から「連想」が働くような感じで情報をキャッチできる環境を目指しているそうです。原則としてキーワードの一致・不一致によって情報を峻別するウェブ検索とは、ひと味違う仕組みになっています。

「連想検索」を応用したサービスとしては、2004年6月に「新書マップ」がスタートしました。ウェブ上に無償公開されている18種類の情報源(近代デジタルライブラリー、古書じんぼう、明治大学図書館、ウィキペディアなど)を対象に連想検索できるサービス「想 IMAGINE Book Search」もあります。ぜひお試しください。

「お茶ナビゲート」では、街歩きの「お薦めスポット」を自動的に検索し、表示するだけの利用にとどまっていますが、これからの地域メディアのありようを考えるためには、地域に広がる「リソース」を自在に集め、豊かに編集し、必要に応じて効率的に「見せる」ことのできる環境が必須です。今後、地域に生まれてくる、非営利タイプのメディアが共同利用できるような、小さくて使い勝手のいい検索システムが欲しいものです。

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地域におけるメディアのありようを考えるには、既存メディアの動向や消長だけでなく、既に生まれつつあるメディア的な事例についても注目していく必要があります。メディアに関する議論は既存のメディアの専権事項のように思われるかもしれませんが、周囲をよく見渡してみれば、地域に根差した情報発信の事例が急速に増えていることが分かるはずです。

その意味で、個人的に大きな関心を抱いているのが、日本に登場してからほぼぼ20年になるNPOです。さまざまなテーマに、地域密着あるいはテーマ密着の形で取り組んでいるNPOの一つひとつが、専門性に富む地域メディアとして役割を担う可能性があると思うのです。

NPOとして名乗りを上げている以上、紙媒体かデジタル媒体か、あるいは情報発信のレベルの問題は別にしても、多くは既に自前のメディアを持っていると思われます。ソーシャルメディアをはじめとするITも安価に使えるようになりました。NPOが日本でスタートした直後からしばらくの間、ITを導入する経費や人材の養成がNPOにとっては大きな負担でしたが、自らの活動を周知することが苦手なNPOにとっては、まさに好機到来と考えるべきでしょう。

この報告では、「20世紀アーカイブ仙台」「連想出版」の二つのNPOを取り上げました。この二つは「情報」を軸に目標を設定しているケースです。情報に特化したNPOとも言えますが、社会問題に広く取り組むNPOこそが、自らの経験に裏付けされたコンテンツを発信する環境を今一度再構築すべきです。

NPOの情報発信と言えば、マスメディアに取り上げてもらうことだけを考えているケースが多いように思います。重要なのは、自ら保有するコンテンツ(アーカイブ)を自ら発信し、自らの活動につなげる循環を生み出すことです。情報の収集から編集、発信等のメディア的な活動の先に、地域との関わりを強く意識した固有の目標を設定していくことです。

写真(上)は「お茶ナビゲート」について説明する高野さん(お茶ナビゲートで)

写真(下)は「検索の新地平」

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