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東日本大震災後の脱原発運動描く/小熊英二監督「首相官邸の前で」

shusho_kantei_p歴史社会学者で脱原発運動でも知られる小熊英二さんのドキュメンタリー作品「首相官邸の前で」を見ました。仙台では初めての上映会が、2015年9月17日、仙台市青葉区のブックカフェ「火星の庭」で開かれました。上映会後、作家の佐伯一麦さん(仙台出身)と中沢けいさんをゲストにトークショーもありました。

「首相官邸の前で」は10月24日(土)の午前11時、午後1時半、午後5時の3回、仙台市青葉区の桜井薬局セントラルホールでも上映される予定です。

「首相官邸の前で」は、東日本大震災による福島第一原発の事故後、急速に盛り上がった脱原発運動を追っています。この運動は、動員をかけるなどの、旧来型の組織的な統率が見られず、参加のスタイルも、踊りあり、音楽ありとさまざま。市民一人一人がその意味や効果について、迷いながらも、徐々に参加者が増えていく様子が丹念に描かれています。政治や東京電力、メディアに対する不信感から複数のグループがつながり、原発再稼働反対を野田首相に直接、訴えるに至ります。

政府関係者とおぼしき人物とのやりとりが出てきます。

「みなさんはどんな団体を代表しているのか」

「われわれは何か特別の団体を代表しているわけではない」

小熊さんが浮き彫りにしたのは、「首相官邸」に象徴される既成の政治に対する新しい形の意思表示の場面とも言えそうです。いわゆる安保法制をめぐって、国会前で連日繰り広げられている学生、市民、学者グループなどの反対運動とイメージが重なりました。

2012年夏には、約20万人が首相官邸前に集まるまでに盛り上がったものの、マスメディアの報道が少なかったため、脱原発運動の全貌が知られることはありませんでした。上映会の参加者の多くは、東日本大震災をさまざまな形で受け止めた人たちでした。福島原発事故についても、恐怖と不安の中で受け止めてきました。にもかかわらず、「脱原発運動がこんなに盛り上がっていたとは知らなかった」との声が多く聞かれたのは、震災当時、地方メディアの現場の一端を預かっていた一人として、釈明のしようがありませんでした。

「首相官邸の前で」は、それぞれに立場の違う人たち8人へのインタビューで構成されています。映像資料をインターネットに求め、編集する手法も、ドキュメンタリーとしては非常にユニークです。

インタビューには脱原発運動の参加者、原発事故の被災者、在日の米国系企業の関係者のほか、事故当時、首相だった菅直人さんも登場します。立場の異なる人たちのインタビュー映像を歯切れよくつなげ、関連映像を重ねながら「脱原発」に向かううねりを描く手法は斬新です。

特に「脱原発運動」の映像資料をインターネットに求める手法からは、「脱原発運動」の現場の多様さが伝わってきます。映像権利者との間の信頼関係をベースにしている点で、メディア作品と市民参加の運動のありように新しい形を提案しているとも言えるでしょう。映画終了後のエンドロールでは、映像資料の提供者とネット上の所在地のデータを明示しています。

このような、一定のテーマを設定し、ネット上のコンテンツを自在に編集する手法は、「首相官邸の前で」のような、大型のテーマでなくとも、多様なメディア表現に応用が可能なような気がしました。

写真は上映会後に開かれたトークショー。

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